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Always on the side of the egg

先日、村上春樹氏がエルサレム賞を受賞した事がニュースになっていました。ニュースでは「村上氏がスピーチでイスラエルに対する抗議を示した」旨が報道されていましたが、ネットでスピーチの内容を読んでみると(現地新聞はこちら)、氏の小説や人間に対するまなざしが非常によく伝わる内容でした。また、抗議についても、文化人の受賞スピーチにありがちな型にはまったものではなく、文学的な比喩を隠れ蓑(!?)にしつつ、相当踏み込んだ発言をしているのは胸に迫るものがありました。エルサレム賞というのは、“「社会における個人の自由」をめぐる優れた執筆活動に対して送られる文学賞”だそうで、皮肉にも社会システムが空爆という形で個人を死に追いやる事になってしまっているイスラエルに出向いてこうした主張を行った村上氏の行動は、同じ日本人として誇りに思います。

=以下一部抜粋=

"Between a high, solid wall and an egg that breaks against it, I will always stand on the side of the egg."

If there is a hard, high wall and an egg that breaks against it, no matter how right the wall or how wrong the egg, I will stand on the side of the egg.

Why? Because each of us is an egg, a unique soul enclosed in a fragile egg. Each of us is confronting a high wall. The high wall is the system.

「“高くて堅固な壁と、それにぶつかって壊れる卵の間で、私はいつも卵の側に立つ。”」

「もし高く堅固な壁と、それにぶつかって壊れる卵があるとしたら、たとえどんなに壁が正しく、どんなに卵が間違っていても、私は卵の側に立つ。何故か?私達それぞれが卵であり、壊れやすい殻に閉じ込められたかけがえのない魂だからです。私達それぞれが高い壁に立ち向かっています。高い壁とはシステムのことです。」

I have only one reason to write novels, and that is to bring the dignity of the individual soul to the surface and shine a light upon it. The purpose of a story is to sound an alarm, to keep a light trained on The System in order to prevent it from tangling our souls in its web and demeaning them. I fully believe it is the novelist's job to keep trying to clarify the uniqueness of each individual soul by writing stories - stories of life and death, stories of love, stories that make people cry and quake with fear and shake with laughter. This is why we go on, day after day, concocting fictions with utter seriousness.

「私が小説を書く理由は一つだけです。個々の魂の尊厳を表出させ、そこに光を当てる事です。物語の目的はシステムの網に私達の魂が絡めとられ、品位を失う事を防ぐ為に、システムに対する警笛を鳴らし、光をあて続ける事です。私は小説家の仕事とは、生死の物語、愛の物語、人々が泣き、恐怖に震え、笑いに揺さぶられるような物語を通じて、個々の魂の独自性を明らかにしようとし続ける事と確信しています。というわけで、私達は日々一生懸命に“作り話”を“でっちあげて”いるのです。」

私の稚拙な訳ではあまり魅力が伝わらないかと思いますが、「たとえどんなに壁が正しく、卵が間違っていても、私は卵の側に立つ」というような“まなざし”は我々が生きる上でとても大切なもので、それはもちろん「いつでも弱い者の味方」なんて事とは違う、もっと多面的で深遠な意味を含んでいると思います。また、“壁”というと、氏の代表的著作である『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』において暗喩的に用いられていた“壁”を思い出します。そして人の弱さや滑稽な部分を“神々しい”と尊び、実際それこそが人間の魅力であり、世の中の面白さであるという事を、氏の著作と翻訳作品は味わわせてくれていますし、成人する以前から村上作品の読者である私自身、それらの著作から大きな影響も受けています。中でも『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』や村上龍氏の『愛と幻想のファシズム』の読書体験は強烈で、まさに“システムに対する警戒感、反抗心”を意識し、自分の想いや夢を結実させる為のシステムは自分自身で手にしていたい、という思いが芽生えるきっかけになりました。ですから「物語の目的はシステムに警笛を鳴らし、光をあて続ける事」というくだりも、心から納得の出来るものでした。

そんな“まなざし”について語った村上氏のスピーチに勇気付けられる人はとても多いと思うんです。人の弱みにつけこみ、揚げ足をとり、失態を笑い、他人の堕落を楽しむような事に付き合わされがちの今の日本人にとっては特に。ですから、是非ともこうしたスピーチを小さなニュースで終わらせず、真意が伝わる報道をして欲しいと思います。少なくとも自国の大臣の酩酊会見を執拗に報道し、2重3重に国益を損なうよりは、「日本人作家が戦火に燃えるイスラエルの授賞式にあえて出席し、作家らしい表現力に満ちたスピーチによって、政治家などより遥かに踏み込んだ抗議を行なった。」事の真意を受け止める事の方が、遥かに有意義であろうと思うのです。それはオバマ大統領の演説に勝る魂が込められたメッセージだったのですから。

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